ひとり情シス」は、社内のIT全部(アカウント発行・PCキッティング・ネットワーク・SaaS・セキュリティ・ヘルプデスク・備品管理・IT企画)を一人で切り盛りする役割。中小企業や成長中のスタートアップに多く、裁量とスピードが武器です。
未経験で怖い?むしろ仕組み化・標準化・自動化で乗り切れる世界。正解は一つではありませんが、“仕組み”を積み上げるほど楽になるのが情シスの醍醐味です。
目次
ひとり情シスが感じるモチベーションの源泉
- 自分の施策が会社を速くする(入社初日にPCとアカウントがスムーズに渡る、VPNなしのゼロタッチ運用など)
- ユーザーの“困った”を一撃で解決(「助かった!」がダイレクトに届く)
- 小さなチームで大きな改善(SaaSを一本化、パスワード共有文化を撤廃…効果が数字で見える)
- キャリア資産が貯まる(設計・運用・セキュリティ・ITガバナンスが横断的に身につく)
未経験でも目指せる理由(スキルの“分解”)
情シスの仕事を7つに分解すると、学ぶべき範囲がクリアになります。
- ITインフラ基礎
- IP/サブネット、DNS/DHCP、NAT、Wi-Fiの基本。
- OS基礎(Windows/macOSの初期設定、ポリシー、更新管理)。
- SaaS/アカウント管理
- Microsoft 365 / Google Workspace のユーザー/グループ運用、SSO、MFA。
- ライセンス最適化と監査ログの基本。
- PCキッティング/MDM
- Intune / Jamf / Kandji などでゼロタッチ化。
- 標準イメージとプロファイルで**“誰がやっても同じ結果”**に。
- ヘルプデスク/ナレッジ
- チケット起票→SLA→テンプレ返信→ナレッジ化。
- “再現手順”と“原因の切り分け”の言語化が要。
- 資産管理/調達
- 端末・周辺機器・ソフトの台帳整備、棚卸し、EOL管理。
- コスト見える化(TCO/更新サイクル)。
- セキュリティ/ガバナンス
- MFA徹底、権限の最小化、端末暗号化、ログ活用、ゼロトラスト志向。
- ルールは簡潔に、抜け道を作らない運用。
- 自動化/スクリプト
- バッチ/PowerShell/bash、SaaS API連携で人手作業をなくす。
- “1回/日×全社”は自動化の絶好のターゲット。
ロードマップ:最短で戦力化する90日プラン
Day 0–30:基礎と可視化
- ネットワーク基礎(IP/DNS/DHCP/NAT)をマスター
- 現状のSaaS/端末/ネットワーク/ライセンス/費用を棚卸し
- ヘルプデスクの仕組み(チケット → SLA → FAQ)を用意
- 資産台帳(GoogleスプレッドシートやNotionでもOK)を立ち上げ
Day 31–60:標準化と一本化
- キッティング標準手順を確立(チェックリスト+動画3分)
- MDM導入/強化(暗号化・パッチ・ポリシー適用・紛失対策)
- SaaSのアカウント発行/削除をテンプレート化(入社/退職)
- 共有ドライブ権限を“原則最小”に切替、申請フローを整備
Day 61–90:自動化とセキュア化
- 入退社フローをフォーム→ワークフロー→自動化へ
- MFA未設定者の検知→自動リマインド
- 監査ログの可視化ダッシュボード(アラート閾値を定義)
- 費用の見える化(部門別/ユーザー別コスト)
実務で使える“最初の一歩”テンプレ
ヘルプデスク返信テンプレ(例)
件名:[受付]◯◯の不具合
①現象/②発生端末(OS/ブラウザ)/③再現手順/④発生時刻/⑤スクショ の5点を教えてください。
1営業日以内に一次回答、3営業日以内に原因と対処を共有します。
資産台帳の列(最小セット)
資産ID / 種別 / メーカー / 型番 / シリアル / 購入日 / 保証 / 所有者 / 配置 / ライセンス / 返却日 / 状態 / 備考
入社チェックリスト(抜粋)
- アカウント(M365/Workspace/Slack)
- グループ/権限付与(原則最小)
- PC配布(暗号化/MFA/MDM登録/ブラウザ拡張)
- 業務アプリ申請→承認
- セキュリティ研修(10分動画+クイズ)
“仕組みで回す”ツール設計(低コストでOK)
- チケット:Jira/Linear/ClickUp/Backlog/Spreadsheet+フォーム
- ナレッジ:Notion/Confluence/Googleサイト
- 資産管理:Sheet/Notion → 規模拡大で専用SaaSへ
- MDM:Intune(Win中心)/JamfやKandji(mac中心)
- 監視:端末ヘルス(MDM)、SaaSログ(管理コンソール)
- パスワード管理:1Password/Bitwarden(共有はアイテム単位)
ポイント:“まずはあるもので回す” → “手間がかかる所を自動化” → “伸びたところに専用SaaSを導入” の順で十分勝てます。
未経験者が最短で成果を出す学び方
- 学習の粒度を小さく:1日30分で「今日の自動化1つ」
- “再現できること”に投資:手順書/スクリプト/チェックリストが資産
- ログを見る癖:SaaS管理画面・端末イベント・監査ログ
- メモはスクショ付き:ナレッジ化を前提に書くと質が上がる
よくある失敗と回避策
- ルールが長すぎて誰も読まない → “A4一枚・図解・YES/NO分岐”に。
- 口頭文化で属人化 → すべてチケットとナレッジに残す。
- なんでも自分で抱える → 役割分担(申請→承認→実行)をフォームで制度化。
- SaaSが乱立 → 目的別に一本化(チャット、ストレージ、会議など)。
- MFA後回し → まずMFA。そこから“最小権限”と“ログ”。
面接・転職に強いポートフォリオの作り方(未経験向け)
- 模擬プロジェクトを作る
- 例:10人の会社に入社/退職フロー、PC配布手順、アカウント台帳、FAQサイトを設計。
- GitHub/Notionで公開
- 入社フォーム(Googleフォーム)→スクリプトで自動アカウント発行(ダミー)→台帳更新の設計図を載せる。
- スクショ+数値
- 「申請→発行の平均時間を48h→6hに短縮」など、期待できる改善効果を書いて説得力UP。
ひとり情シスのキャリアパス
- ゼネラリスト:情シス責任者 / ITマネージャー(予算・ガバナンス・監査対応)
- スペシャリスト:セキュリティ、デバイス管理、SaaSプラットフォーム、ネットワーク
- ビジネス寄り:IT企画 / コーポレートIT / IT×オペレーション改善
“仕組みで会社を速くする力”はどの道でも通用します。
1日を安定させる“運用の型”
- 朝:監視ダッシュボード確認(MFA未設定/容量逼迫/失敗バックアップ)
- 午前:チケット一次回答(SLA基準)、ナレッジ更新
- 午後:改善タスク(自動化・棚卸し・権限整理)
- 夕方:変更管理の記録、次の日のバッチ実行確認
ミニFAQ(検索意図を拾うQ&A)
Q1:未経験からでも応募して大丈夫?
A:大丈夫。“仕組み化の成果物”(手順書・台帳・テンプレ・自動化スクリプト)をポートフォリオにすれば評価されます。
Q2:資格は必要?
A:必須ではありません。実務に直結するのは、M365/Workspace運用、MDM、MFA、ログ活用。資格は“整理学習”として活用すればOK。
Q3:まず何からやる?
A:ヘルプデスク+資産台帳+入退社フローの3点セット。ここが動き出すと社内の満足度が急上昇します。
Q4:セキュリティで最低限?
A:MFAの徹底、端末暗号化、最小権限、更新パッチ、ログ可視化。順番もこのままでOK。
まとめ:あなたの一歩が、会社を速くする
ひとり情シスは“何でも屋”ではなく、会社の生産性を最大化する仕組みデザイナーです。
未経験でも、小さく作って回し、標準化して自動化すれば、必ず評価されます。今日からできる最初の3つ——
- 資産台帳(最小列からでOK)を作る
- ヘルプデスクの型(チケット+テンプレ+SLA)を作る
- 入社/退職フロー(フォーム→手順→チェックリスト)を作る
この3点セットが“会社を速くする”土台です。次はMDMとMFA徹底でセキュリティと運用を一段引き上げましょう。